オペラ座の歌姫失踪事件

オペラ座の歌姫失踪事件 終幕

その男の世界は完成していた。この世に生を受けてから、既に完成しきっていた。男にできることは、その均衡を守ることだけだ。だからそれを使命のように、或いは義務のように遂行していく。満足感も充実感もない。それは男をこの世に留めるただひとつのライ…

オペラ座の歌姫失踪事件 伍

何、簡単な話ですよ。影が笑ったのに対し、嫌な不信感を覚えたのを忘れられない。行き場のない少女は、生きることの目的を見失っていた。常に死んでいるかのようにすら思えた。己の身体に熱を感じず、動きを感じず。それは心にさえ及んで、自分が本当に生き…

オペラ座の歌姫失踪事件 参

さあ、どうしたもんか。宮山紅葉は腕を組んで考えていた。彼はミステリー小説を好むが、特にミステリー小説というだけで、コンテンツの形には拘らない。サスペンス映画も好きだし、時折漫画も嗜む。今の状況的には、どちらかと言えばミステリー小説よりもサ…

オペラ座の歌姫失踪事件 弐

ストーカー兼ファンの男の家はすぐに見つかった。と、いうのも普段から挙動がおかしいらしく、この辺の地区では結構有名だったらしい。古びた家の前で、三人は電柱な隠れながら男が家から出るのを見守っていた。「取り敢えず忍び込んで何かないか捜索……」「…

オペラ座の歌姫失踪事件 壱

木曜日。個人的に気怠い曜日である。探偵・水守綾は唐突に現れた依頼人と交渉を始めたところだった。珍しく壱川からの依頼ではない。と、いうのも壱川からの連絡がここ一週間ほど殆ど来ていない。普段は壱川からの仕事依頼で大抵自分で決めた月のノルマを達…