2024-01-01から1年間の記事一覧
そこに乗せたのは怒りではなかった。ただ純粋に勝ちたいという気持ち。明乃の鋭い眼光がそのまま突き刺さったかのようだった。立ち上がった明乃の一撃に、怯んでいた常盤が吹き飛ぶ。衝撃で天井がまた少し崩れ、爆音となって辺りに轟いた。猫猫事件帖 新章最…
「なーんで人間ってのは学習しねえのかなあ。いつの時代もこういうでけえ現場は通気口が怪しいって相場が決まってるもんだろお?」「えへへ、私こういうの好きだなあ。なんかスパイごっこみたいで楽しいもん!」「そうかあ、そりゃあ良かったよ」適当に返事…
緊張している。物事を前にしてそう思うのは久しぶりだった。いや、初めてかもしれない。今まで随分と適当に過ごしてきたものだから、宮山 紅葉は緊張という言葉とそれなりに遠い生活を送っていた。だから緊張している、という事実を飲み込もうとするほど、余…
暗がりに紛れて、少女は常に憂いていた。憂うべきは先の見えない未来でも、どうしようもなく縋り付いてくる過去でもない。それはただ、退屈という二文字に満たされただけのこの現状だ。常に、常に黒堂 彰は嘆いていた。欲しいものは手に入る。いつだって手の…
宮山紅葉(みややま こうよう)。彼の物語は随分と中途半端に、秋から始まった。就職活動を怠っていたとは言わないで欲しい、彼には彼なりの目標とやるべきことがある。間違ってもニートなんて呼び方はしないで欲しい。彼は彼なりに自称ではあるが職業がある。…
いつからこんな風になったんだっけ。水守 綾は部屋の中でひとり、答えの出ない質問に頭を痛めていた。学生の頃の友人たちと遊ばなくなって久しい。たまにニュースを見てメールが来るが、詳しいことを話すわけにもいかず、結局食事に行ってもはぐらかすのに精…
ずっと引っかかっていた。毎日毎晩、眠る前にあの子供の姿が目に浮かぶ。背が高い方とは言え、あどけない顔が呆然とこちらを見つめている目が、突き刺してくるかのような痛みとなって頭の中に現れる。東雲 宵一は、釈然としないまま今日を迎えた。怪盗として…
祈りに似ていた。ただそれは、祈りにしてはあまりに幼く、あまりに切実で、あまりに純粋すぎるものだった。東雲 宵一は、今もまだその祈りの意味を飲み込めず、消すこともできず、捨てることもできずにいる。祈りに似ていた。少女とも少年とも付かぬその子供…
その男の世界は完成していた。この世に生を受けてから、既に完成しきっていた。男にできることは、その均衡を守ることだけだ。だからそれを使命のように、或いは義務のように遂行していく。満足感も充実感もない。それは男をこの世に留めるただひとつのライ…
何、簡単な話ですよ。影が笑ったのに対し、嫌な不信感を覚えたのを忘れられない。行き場のない少女は、生きることの目的を見失っていた。常に死んでいるかのようにすら思えた。己の身体に熱を感じず、動きを感じず。それは心にさえ及んで、自分が本当に生き…
仰々しい雰囲気に押し負けそうになったのは、何も宮山 紅葉だけではない。その場にいた全員が一度口を閉じて、目の前にそびえ立つ建物を凝視していた。都内某所、元いた場所から車で数十分は走っただろうか。車内の重々しい空気など気にもとめず鼻歌を歌って…
さあ、どうしたもんか。宮山紅葉は腕を組んで考えていた。彼はミステリー小説を好むが、特にミステリー小説というだけで、コンテンツの形には拘らない。サスペンス映画も好きだし、時折漫画も嗜む。今の状況的には、どちらかと言えばミステリー小説よりもサ…
ストーカー兼ファンの男の家はすぐに見つかった。と、いうのも普段から挙動がおかしいらしく、この辺の地区では結構有名だったらしい。古びた家の前で、三人は電柱な隠れながら男が家から出るのを見守っていた。「取り敢えず忍び込んで何かないか捜索……」「…
木曜日。個人的に気怠い曜日である。探偵・水守綾は唐突に現れた依頼人と交渉を始めたところだった。珍しく壱川からの依頼ではない。と、いうのも壱川からの連絡がここ一週間ほど殆ど来ていない。普段は壱川からの仕事依頼で大抵自分で決めた月のノルマを達…
さながら捕食し合う動物のような。それをショーと呼ぶにはあまりに緊迫し過ぎていて、殺し合いと呼ぶにはあまりに愉快だった。煌びやかな壇上で向き合う人間が二人。取り巻きのようにザワザワとそれを囲む男女と、呆然とそれを見ている観衆。木野宮もまた、…
とある金曜日の話。男は本を読みながら脚を組み、少女は嬉しそうに彼の元へ駆け寄った。「みーやまくん!みやまくん!ふふふん、明日は暇?」「暇だけど」また何処かに連れて行けと言われるのだろう。宮山 紅葉は予想して溜息を吐きながら、木野宮 きのみの…
この世には厄介なものが沢山ある。呪いだとか魔法だとか、そう言われるものには全て理由があるものだけれど。理由を知らないから人はそれを呪いだ魔法だと騒ぎ立てる。理由を知らないから人はそれを恐れ、慄き、ねじ伏せようとする。常盤 社(ひたち やしろ)…
絶体絶命。そんな文字列が東雲の頭の中に浮かんだ。目の前には大量の警備員。逃げ場はナシ。一体どうやって此処を潜り抜けようかと考えながら、東雲は人形の頭を一層強く抱き締めた。絶対に渡さないぞ、と言わんばかりに。「またヒョコヒョコと間抜けな怪盗…
進路希望調査。怪盗にとって、これほど意味の無い紙切れはこの世に存在しない。東雲 宵一、当時高校生。趣味は機械いじり、現役で駆け出しの怪盗。志望校や将来の夢を語る学友たちを尻目に、彼一人悩むことも、白紙を恥じることもなくただ溜息だけをそこに残…
「ほんとムカつく」「小一時間くらい前から、それしか言ってないけど」苦笑いを見せる男は、ネクタイを緩めながら目の前に座る女が持つグラスの中身が既にないことを確認した。水曜日。なんともないような曜日に見えて、目の前の女…水守綾にとってはラッキー…
「司教さん……犯人は貴方ですね!!!!」「…………!!」「………………」「………」「……………」「………………」「………………………………」「み、みやまく~ん!!!!」「…………はぁ」猫猫事件帖消えたステンドグラス事件 其の四「何かしらの方法でステンドグラスを割り、マットの上に落と…
「……で、やらせといていいわけ?」「いいんじゃないかな?どの程度の力量なのか見たいってのもあるしね」「前も思ってたけど甘すぎない? 彼女に対して」腕組みをしながら眉間にシワを寄せる女性、水守は困り顔で笑っている男、壱川に叱咤するような口調で言…
「ようこそ教会へ。今はもう立派な観光名所になってしまいましてなあ、勿論嬉しいことですが。無宗教の方が多いこの国ですが、是非とも楽しんでくだされば幸いです」司教・寺本が簡易な挨拶を告げると同時に教会の扉が開く。各々不穏な空気を抱きながら中に…
とんでもなく晴れた日曜日になった。電車とバスを乗り継いで二時間半。都会から少し外れたところにあるその教会は、ひっそりとした場所にあったが周りは人で賑わっていた。つい先日、この教会のステンドグラスの前で愛を誓うと、その恋人たちは永遠に結ばれ…
PM 21:00これはほんの幕間、とある水曜日のお話。夜を追う怪盗達と、怪盗を追う探偵達は、今日もまた都会を闊歩する猫のように街並みを見送る。日が沈み、また昇る。繰り返しよくある風景を今日も見届けて、彰は小さくくしゃみをした。なんだか鼻がむず痒い…
真っ暗な夜をモニターの明かりだけが照らす。遠くに見える大舞台の中は、ほんの数秒前とは打って変わって静かだ。目論見通り、そこに残りそのトリックを暴いた男が仰け反る姿が見える。「……よし、殺すなよ。周辺を整理するからその間時間だけ稼いでくれ」通…
「調子どう?」「バッチリ、って言ってあげたいんだけど」困ったように笑う男、壱川 遵(いちかわ じゅん)は「はいこれ」と言ってIDカードを差し出した。受け取りすぐに首にかけてから、水守が腕を組む。「アンタ下っ端だもんね。刑事になるのが遅過ぎたんじ…
これはとある探偵たちの、或いは怪盗たちの。彼彼女らの始まりを記した、プロローグになり得るひとつの小さな事件。 パソコンの画面に映るそれは、くるくると真ん中が回転して、意味なく思える運動をずっと続けていた。 模型のようにも見えるけど、それが模…
旧版の置き場です。 nanoでえっちな広告が表示されるからです。 改変とか推敲は全然してないですわよ。 よろしゅう。 一昨日